JIHLAVA & Co. 一級建築士事務所 イフラヴァ

スマートハウスについて

2012年7月12日20:19 [6.ちょっとひと息]

最近よくニュースに出てくるスマートハウスがよくわからないという人のために、

分かりやすい解説を見つけたので紹介しておきます。

 

 

 

Business Journalの『早くも市場崩壊!?原発停止で注目スマートハウスの実態』

市場調査会社の富士経済が、「2011年は日本のスマートハウス元年」として、『スマートハウス関連技術・市場の現状と将来展望 2012』を発表したのは、昨年の暮れだった。

それによると、11年のスマートハウス関連市場規模(見込み)は世界市場が2.7兆円、国内市場が1.2兆円。これが20年には世界市場が11年比4.4倍増の11.9兆円、国内市場が同2.9倍増の3.5兆円に急成長すると予測している。

停電も怖くない家

スマートハウスとは、住宅用エネルギー管理システム「HEMS(home energy management System)」により、家電、太陽光発電装置、蓄電池などを一元管理し、自家発電と電力の最適量使用ができる住宅のこと。広義にはエコ住宅(省エネ住宅)になる。

CO2排出量削減を目的にしたエコ住宅は、住宅メーカーが従来から「ゼロエミッションハウス」「ロハスの家」などの概念で販売に力を入れてきた。しかし「地球に優しく健康に良いのもわかるが値段が高い」(一般消費者)など実利性の低さもあり、単独市場として注目されることはほとんどなかった。

それが注目されるようになったきっかけが、昨年の東日本大震災だった。

原発稼働停止を理由とする電力不足キャンペーンを背景に、住宅単体で「創エネ、蓄エネ、省エネ」が実現できる実利的なスマートハウスに関心が高まり、住宅業界外の多種多様な事業者が、スマートハウス関連市場へ参入、あるいは参入を目論んでいる。異業種参入組の中には、家電量販最大手・ヤマダ電機なども加わっており、住宅メーカーにとっては大きな脅威になっている。

こうした状況から、住宅業界も苦戦中の「エコ住宅」から「停電も怖くない家・スマートハウス」へ向けて大きく舵を切り、昨年後半から各社は、スマートハウスの発売計画やスマートシティ開発計画を相次いで前倒し発表するなど、にわかにスマートハウス関連市場が立ち上がる様相を見せている。住宅業界関係者が、「これでやっとエコ住宅販売促進の決定打が出た」とはやるのもうなづける。

100社以上の新規参入で、市場は大混乱

ところが「スマートハウス元年」と位置づけられ、その9年後には「3.5兆円の市場規模」と景気の良い花火が打ち上げられたのにもかかわらず、一向に普及の見通しが立たないのだ。

現在、住宅メーカーを中心に発売や分譲が計画されている、スマートハウスやスマートシティは、現状では「いずれも住宅設備や家電は、市場流通品と互換性がない特注品の塊のような家。だから、価格も標準家屋モデルで約1億円と、既存のエコ住宅よりずっと高い」(電機メーカー関係者)。これでは売れない。

一方、スマートハウスが機能するためには、その三大要素である

・創エネ(太陽光発電)
・蓄エネ(リチウム電池)
・省エネ(家電・住宅設備)

の連携が欠かせない。この連携を支える中核となるのが、住宅用エネルギー管理システムであるHEMSなのだが、肝心のHEMS規格が震災前のわが国では標準化前の状態だった。

その状態の中で、震災後は住宅、不動産、家電、通信、電子部品、自動車と多種多様な業界から、100社を超える事業者が一挙にスマートハウス事業に進出、HEMS利用のさまざまなアイデアでしのぎを削っている。

「見える化」と「電力消費制御」

各社のアイデアを見ると、その基本は2つに大別できる。

1つはHEMSを利用した電力消費量の「見える化」。分電盤に計測器をつけ、宅内LANで家電などの電力消費データを収集、それをサーバに記録してケータイやパソコンで閲覧できるようにする。

もう1つはHEMSを利用した「電力消費制御」。リチウム電池を導入し、電力消費が少ない夜間にリチウム電池へ充電した電力を、昼間に使うことで、自動的にピークシフトを行うもの。また、停電時などは、太陽光発電や燃料電池からの電力供給に自動的に切り換わる。

この2つを基本機能に、各社がさまざまな「HEMSサービス」を打ち出しているため、震災前までHEMS規格標準化の中心として地道な努力を続けてきた電機メーカーの、想定外のサービスが続出している。中には標準化と逆行するようなサービスで、HEMS利用の差別化を図ろうとするケースさえ出てきている。大変な混乱ぶりだ。

突然の標準規格決定

そんな騒ぎの中で、HEMSの標準規格が突然決まった。

2月、経産省「スマートハウス標準化検討会」が発表した、「エコーネットライト」がそれだ。だが、驚くことにこの規格は、15年も前の97年設立の「エコーネットコンソーシアム」で策定されていた。

この規格に準拠した家電も発売されている。02年に東芝、翌年に松下電器(現パナソニック)が発売し、インターネットに接続できる「ネット家電」として話題になった。

しかし、その時は一定の省エネ効果しかなく、消費者が高いお金を払ってわざわざ買うほどの魅力がなかったため、まったく売れず、話題倒れに終わってしまった。その後、エコーネットライトはお蔵入り同然になっていた。

それが、震災後のスマートハウスブームで急遽蔵から引っ張り出され、昨年8月からたった3回の「スマートハウス標準化検討会」会合で、エコーネットライト対応の家電、スマートメーター、太陽電池など、約80種類の規格やインターフェースが決定されたというわけだ。

HEMSのこうした過程を振り返ると、なんとも場当たり的な対処に思えてならない。国の計画性がまったく感じられない。だから「HEMSの標準化が正式に決まったといっても、この先はどうなるか、やってみなければわからない」と不安を見せる住宅メーカー関係者も少なくない。

本格発売は2年先?

というのは、これから約80種類の機器ごとに、エコーネットライト接続検証をするわけだが、同検討会が規格決定と同時に示した今後の工程表では、検証が終了するのは、早くても来年度中になっているからだ。さらに「エコーネットライトと国際標準との連携調整」もしなければならないが、国際交渉なので、これもいつ決着するのかわからない。

つまり、早くても2年先にならないと、スマートハウスは実質的に発売できないわけだ。スマートハウスをすでに発売している住宅メーカーもあるが、これらは「独自規格のHEMSを使っているケースが大半。広告用モデルハウス程度でしかない」(エネルギー関係者)ようだ。

もう1つ問題がある。今回決まった規格は国内標準であり、これが国際標準と整合するかどうかは、今後の交渉次第。行方がまったくわからないことだ。

米国では「SEP(Smart Energy Profile)2.0 」、欧州では「KONNEX」の策定作業が進んでおり、これらが国際標準になる可能性が高いといわれている。

政府の国際交渉能力の低さを考えれば、国内標準と整合性のない国際標準が決まる可能性が極めて高い。そうなるとスマートハウスの主要設備となるスマートメーター、分電盤、蓄電池、太陽光発電装置などは、国内市場でしか販売できないのでコスト高になる。すると当然、スマートハウスの価格も、庶民の収入とは縁遠いものになる。

そうして右往左往している間に、HEMS国際標準に準拠した低価格の主要設備を武器にした中国事業者などに、スマートハウス市場を席巻される可能性も高い。

スマートハウスは、スマートグリッドと並んで、いまや「エネルギー最適利用」の国際潮流になってきている。それを前にして「政府のやることは余りにも泥縄的で、しかも遅い」(電機業界関係者)。わが国のスマートハウス市場が、海外勢の草刈り場にされないことを祈るばかりだ。
(文=福井 晋)